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【クジラの彼】小説版の感想とあらすじ。史上最強の制服ラブコメ!?

クジラの彼 あらすじと感想オススメ図書

ここでは有川浩さんの小説「クジラの彼」の簡単なあらすじと感想を紹介しています。

 

「クジラの彼」は史上最強“制服ラブコメ”推参!!___という帯の煽り文句もすさまじい、有川浩にしか書けない素敵な自衛官の恋バナの数々です。

単体のお話もあれば、これまでに出版自衛隊三部作からのスピンアウトもあり。

どれ一つとってもハズレのないオムニバス、第一弾です。

 

クジラの彼の簡単なあらすじは?

クジラの彼(「海の底」より)

友人に誘われたのは横須賀に停泊している潜水艦の乗組員というレアな人種との合コン。そこで中峯聡子はイケメンに出会いました。

冬原春臣という如才ない彼は、新人の幹部自衛官。

思いがけない恋に落ちた二人でしたが。

とんでもない試練が待ち構えていました。

 

まず、通常勤務でも、海に潜ってしまった潜水艦とは連絡が取れません。

“遠距離恋愛、しかも相当にキツイバージョン”___と冬原が予言したとおりになったのです。

そして、ある日彼が乗っていた潜水艦に非常事態が。

横須賀に未確認生命体が大量上陸し、彼の艦がそのただなかに取り残されてしまったのです(「海の底」参照)。

 

その頃、聡子には別な危機が。

会社の跡取り息子に気に入られ、付きまとわれる日々をなんとか切り抜けていたとき、とうとう自宅前マンションまで突き止められてしまったところに、生還した冬原がいたのです。

 

「すみません、どなた存じませんが、外していただけませんか?俺たち、四ヶ月ぶりなんです」

 

とっさに抱き着いた彼の身体からは例えようもなく強烈な、目に刺さるほどの刺激を伴った異臭がしていましたが。

その彼の壮絶な数日間の話を聞き、慰め、聡子は想いました。

「あたしのクジラ乗りさん」___彼女は、冬原と生きる覚悟を固めていたのです。

 

ロールアウト

自衛隊には、トイレにまつわる不思議な文化がありました。

この物語は航空設計士としてK重工(川崎重工?)に勤務する若きエンジニア宮田絵里と、小牧基地で輸送機の部隊(第一輸送航空隊)で彼らのアテンドをしていた高階三尉の物語です。

 

基地内を案内してくれる高階が示したルートは、誰がどう見ても格納庫内の男子トイレです。

タイル張りの“通路”の壁側には小便器が。

そして反対側には個室が並んでいるという、女子には厳しいシチュエーション。

そこを抜ける以外の選択は、格納庫の外周を大回りにしなければならない、というものです。

それは、絵里と高階、そしてトイレにまつわる長い戦いの、まだほんの序章に過ぎなかったのです。

 

絵里が取り組んでいたのは次世代型の輸送機の設計です。

高階は、現行の輸送機のカーテンで仕切られるだけの貧弱なトイレの環境を、コンパートメント化して欲しい、と主張したのです。

二人はそのトイレを巡って対立もしますが、やがて、同志になっていきます。

 

「官の要望を統一してください。官の要望が揺らいでいたら戦えません」

“民”の立場から働きかける絵里は、高階にそう依頼したのです。

 

余談ですが。

この物語は恐らく現在“ロールアウト”したC-2輸送機をモデルにしています。

2000年に開発決定、本作が発表された2005年には川崎重工岐阜工場で組み立てのための施設が出来上がり、開発が動き出していたものと思われます。

そしてトイレは、実際にこの作品で検討されていたように、個室のものがとりつけられているのだとか…。

 

国防レンアイ

陸上自衛隊・真駒内駐屯地。

自衛官歴8年の宣下雅史三曹は同期の三池舞子三曹を複雑な思いで見ていました。

 

女性陸上自衛官は通称WAC(ワック)と呼ばれます。

その男女比が大きく偏っている世界では、女性は総モテ状態。

中でも三池は新人当時から広報誌のモデルに何度も駆り出されるほどの容姿の持ち主だったのです。

 

彼女とは同じ高校出身で、淡い想いを抱えていた宣下でしたが。

三池はその時その時でいろんな男と恋愛を展開しており、今もまた飲みに誘われた宣下は生々しいその破局話を聞かさていたのです。

酔いつぶれた彼女を背負って戻る途中に盛大に吐かれ、服が全損する憂き目にあっても、宣下は彼女のことを見捨てられず…そんなことを何度も繰り返していたのでした。

 

「こんな女を8年好きな俺もたいがい趣味が悪いわ」

 

荒れて飲んで寝落ちした彼女に、宣下が書き残したメモ。

そんな二人の、というか宣下の、8年越しの恋の物語です。

 

有能な彼女(「海の底」より)

横須賀の潜水艦でとんでもないサバイバルを経験した二人…夏木大和二等海尉と、森尾望の後日談です。

三尉から二尉へと昇進し、年齢も経験も重ねた夏木と、高校三年生から大学を経て、防衛省の技官として海上自衛隊の仕事をするようになった望は、夏木の乗艦が横須賀に戻るたびにウィークリーマンションで短い同棲を繰り返していました。

 

その頃、夏木の盟友でもある冬原は聡子と結婚し、子供たちは成長して幼稚園児になっていたのです。

夏木と望の出会いは、幸せなものではありませんでした。

むしろ苦難の日々であり、まだ未成年だった望は夏木のことを「忘れる」と言って去っていったのです。

 

それから数年が立ち、望は思いがけない方法で彼の前に現れました。

違うアプローチではありましたが、同じ分野の職業に就いたのです。

 

しかし、実際に付き合ってみると、望はなかなかに面倒くさい女の子でした。

複雑な家庭環境で育った望にとっては、夏木はワガママを言えるただ一人の相手なのかもしれません。

素直になれない夏木に、一足早く結婚した冬原は言ったのです。

 

「30過ぎたらプロポーズするの気後れするよ、多分」

 

可愛くて有能、そして誰よりも大切な望を前にして、夏木は人生最大の決意を固めつつあったのです。

 

脱柵エレジー

脱柵(だっさく)とは、あまり一般的な言葉ではありません。

解りやすく言えば、脱走。

集団生活を旨とする自衛隊に於いては、勤務時間が終わった夜でも、決められた場所にいることが義務付けられているのです。

 

ところが、その環境に耐えられなくなったりした若い隊員がときどきやらかします。

そしてその原因の中に少なからず存在するのが“色恋沙汰”だったり。

 

清田和哉二曹は目の前で震えていた隊員を見て自分の若い頃を思い出していました。

清田の部下、吉川夕子三曹が気づいて連行してきたのです。

高校時代から付き合っていた彼女に「寂しい」と言われて思わず飛びついてしまった彼。

途中で待ち合わせて、顔を見たら朝までに戻ってこようとしていた、というその話を聞き、土下座するその姿に清田は言いました。

 

「その辺でやめとけ、二年くらいしたら自分を絞め殺したくなるぞ」

 

実はその数日前、清田と吉川は「そろそろだなぁ」「そろそろですねぇ」といった会話を交わしていたのです。

毎年の風物詩的に繰り返されるこの脱柵、かつて清田も同じことをしていたのです。

その当時の経験を聞かせて諭すと、思い当たることがあったのか…彼は萎れて俯き、吉川に促されて隊舎に戻されていきました。

 

清田が温かいココアを飲んでいると、吉川が戻り、ふと懐かしい話になりました。

彼女も、付き合っていた男に唆されて脱柵を試みたことがありました。

士長から、三曹への昇任がかかった大切な時期に、生真面目な吉川にそんなことをけしかけるなんて、ろくな男じゃない、と清田は言いました。

 

今ではそんなことも笑い話になりつつあった、二人の阿吽の呼吸。

郡山に転属が決まった清田に、吉川が言いました。

 

「今なら私は距離にも時間にも負けない自信があります」

 

夜中の二時。

清田は、こんな吉川との時間を意外と気に入っていたのだ、と思っていました。

 

ファイターパイロットの君(「空の中」より)

春名高巳(はるなたかみ)は5歳の娘・茜に「パパとママが初めてチューしたのはどこか」と問われ、考えを巡らせました。

説明が難しい…と思い悩むには理由がありました。

というのも、彼の妻・光稀は、女子力は確実に5歳の娘の方が上だと判断できる…かなり特殊な為人と、その職業…奥様は、航空自衛隊のファイターパイロットだったのです。

 

それから数年前のある日。

日本を揺るがすような大事件が起こりました。

高巳が三津菱重工のエンジニアとしてその事件解決に協力を命じられ、岐阜基地に出張した時に出会ったのがF-15の操縦士…イーグルドライバーの光稀さんだったのです。

 

彼女は戦闘機に乗ることだけを願って生きてきた、およそ普通の規格には収まらない人でした。

その彼女と、騒動鎮静化後に“デート”することになった高巳は、待ち合わせの場所に現れた彼女の姿にぎょっとしました。

制服・フライトスーツ・作業服…以外で、初めて目にした彼女の、メイクした顔、カットソーと膝上タイトスカート、ロングブーツというカワイイ私服姿だというのに。

その首からぶら下がっていたのは、自衛隊謹製のステンレスの認識票だったのです。

 

「着けてないと個人情報が分からないじゃないか」

 

…光稀さんの言い分は、戦場のそれであって___高巳はその認識票の意味(本来の使い道)を知っているだけに殺伐効果倍増…。

「俺とのデートで身元が判明しない程のどんな大惨事に陥る気だよ!」

彼はその認識票を外させて、似合うアクセサリーをプレゼントし、映画を観て、仕上げ、とばかりに彼女を小牧空港(現:県営名古屋空港)に連れていきました。

 

夕食を済ませて滑走路の端にある公園に来たとき、光稀さんは頭上をすれすれに降りていく旅客機を見て表情を輝かせていました。

同じ“飛行機好き”として彼女の好みを知り尽くしていた高巳。

そして二人は、彼らなりにロマンチックなシチュエーションで初めてのキスを交わしたのです。

 

だから、彼は茜の質問には、こう答えました。

「初めてのデートの帰りに車の中だったよ」と。

 

その頃、名古屋に住んでいた高巳と茜。

光稀さんは石川県の小松基地に単身赴任していたのです。

茜の誕生日に、必死に帰ってきたとき、光稀さんは娘が欲しがっていたテディベアにあるものを着けていたのです。

特注のチタン製認識票___しかも自衛隊仕様というこだわりっぷりでした。

 

「だから保育園のレジャーで娘の身元が判明しない程のどんな大惨事に陥る気だよ!?」

「今どき物騒なのに大事な娘に認識票も付けないで野外行程に出せるか!」

 

この妻にしてこの夫あり。

そんな二人と、かわいい一人娘の物語でした。

読んだ感想

初出が2005年から2007年の作品です。

この頃にはまだ、数年後にやってくる東日本大震災と、それによって激変した自衛隊への評価というものなど、予兆もなく。

そして、それまでにフィクションで描かれてきた自衛官とその家族や恋人たちの姿というモノは、かなり特殊なケースが多く、どちらかというと破滅的なものや、男性目線のハードな話ばかりでした。

 

要は、あまりハッピーではなく…男は戦って、女は取り残されていく、みたいな。

 

それ、フツーじゃないから、と…のめり込むこともなく読んでいました。

最初に新聞の書評でこの本を知った時、しびれました。

そして書店で手に取った時。

 

「うっわ、マジか?!」

 

…その場で一冊読破してしまいそうになり、慌ててレジに走りました。

それが、私が有川浩さんの世界にのめり込んだ瞬間でした。

 

“自衛隊あるある”なテーマや、中の人たちでないと知りえない、逆に、外の人には新鮮なネタがちりばめられていて、そこに恋愛とお仕事が絶妙なバランスで突っ込まれている、そんなベタ甘なラブコメ___見たことなかった!

あとがきがまた素晴らしくて。

有川浩さんがどんな思いでこれらの作品を書いていたか、そんな思いが迸っています。

理屈抜きに楽しいです。

 

さて、キャラのイメージはそれぞれですが

「海の底」スピンアウトでは…。

夏木:鈴村健一

冬原:石田彰

の組み合わせはお勧めです。

 

それから「ロールアウト」では…ちょうどその頃、大河ドラマの「篤姫」の影響が強く。

絵里:宮崎あおい

高階:堺雅人

で読んで萌えたのを今でも覚えています。

お勧めです。

 

この一冊、オムニバス映画にならないですかねぇ…今ならそれも可能ではないかな、と思って読み返しました。

ちなみに、文庫版も出ていますので、お手軽に読んでいただけます。

是非!

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